東野圭吾「白夜行」を読んで。 大阪の描写が秀逸。「育つ環境」と「生まれ」について鋭く訴えかけている。
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最終更新日:2017/12/20
本・漫画・書評
東野圭吾の白夜行を読み終えました。
ここでも街の描写は細かく的確だと思いました。
白夜行の主な舞台は大阪です。
東野圭吾は作中で大阪について登場人物に語らせているのが、大阪(大阪人)のリアルだと思います。
桐原「大阪は狭い、どうってことない町だ。くすんだ町だ。埃っぽくて、薄汚れていて、ちっぽけな人間たちが虫みたいにうごめいている。そのくせ連中の目だけはぎらぎらしていている。すきを見せられない町だ。」
古くて小さな民家がびっしりと並んでいる。この地には建蔽率はないみたいだ。
商店がいくつも開いていたし、歩いている人の数は多い。商店主や通りかかる人の目には目力があった。無論、単に精力的なだけではない。誰かがすきを見せたらつけ込んでやろう、出し抜いてやろうという企みが、その目の光には宿っているようだった。
そして美しい悪女雪穂が通っていた小学校の記述。
毎年何人かが万引きで捕まり何人かが親の夜逃げでいなくなる。午後に前を通ると給食の残飯の匂いがし、下校時刻になると子どもたちの小遣いを狙った胡散臭い男たちがどこからか現れる。もっとも子供たちはそんな大人に引っかかるほど甘くはない。
そしてこの地区の小学生の記述。
薄汚い恰好で、妙に擦れた顔つきをした子ども。
これらは大阪についての記述であるが、俺も大阪出身ということで、このあたりの記述は本当によくわかる。
本当にここに書かれている内容そのままの街だと思う。
生野だけがというよりも大阪という街はこういう街だと思う。
だから大阪という街や人を嫌う人が多くいるのもわかる。
白夜行が作品を通して、訴えかけてくるのは、「育つ環境」と「生まれ」についてだと思った。
「家に金があるから、ああいう紳士が出来上がるんだよ。顔立ちだって気品ってものが出て来る。あの人だって貧乏人の家に生まれてたら、もっと下品で卑しくなってたに決まってる」や
株やブティック経営に見られる生野の貧乏家庭で育ったことによる雪穂の金への執着。
「服はその人の内面を引き立たせるもの。だからお客様の服を選ぶときは、その人の内面も理解してあげないと。」「たとえば本当に育ちの良い人が着ると、どういうものでも気品に溢れて見えるものなんです。」
雪穂は、生まれ持っての美貌に児童期にあらゆる汚い中年の男に体を弄ばれた過去、生野の劣悪な環境、そこから芦屋よりも地価の高い大阪の高級住宅地真法院町へと引っ越しお嬢様として育てられた過去、それらが絶妙にマッチすることでとてつもなく魅惑的で妖艶な悪女キャラになっている。
雪穂はやってることはめちゃくちゃ酷いけど、白夜行を読んだ男性読者は、絶対雪穂のことを嫌いにならないだろうなーと思いました。
むしろ抱きたい!!って夢中になるんじゃないかと思いますw
雪穂は「風と共に去りぬ」のスカーレットオハラに憧れていたと作中で語っているけど、強い女性として過去のトラウマやしがらみにも負けず、この世を強く逞しく生き抜くという姿勢はオハラと同じなのかなーと思いました。
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